影響力の6原理は、相手を分類して成約させる話法ではありません。営業で使うなら、相手が確かめたいことを聞き、事実と検証できる資料を示すところから始めます。 訂正・保留・見送りも、その場で選べるようにします。
六つの原理を、具体的な行動に置き換える

著者の公式解説には、現在はunity(一体性)を含む七つが載っています。ここでは、従来の六つを入口にします。下表の対応は、このサイトでの実務上の整理です。特定の相手に効果が出るという予測ではありません。
| 原理・主な傾向 | 営業で整えること | 避けたい扱い |
|---|---|---|
| 返報性:受けた働きかけに応えようとする | 資料や試用の条件、見返りの有無を先に示す | 「渡したから会ってほしい」と貸しにする |
| 一貫性:表明や行動との整合を保とうとする | 合意した範囲と変更点を確かめる | 過去の「はい」で新しい依頼を承諾扱いする |
| 社会的証明:他者の行動を手掛かりにする | 事例の工程・規模・期間と適用外を示す | 総数だけで自社にも合うと言い切る |
| 権威:専門性や立場を手掛かりにする | 資格の対象と、主張を確認できる資料を示す | 肩書きで質問を終わらせる |
| 好意:好意を持つ相手の依頼を受けやすくなる | 実在する共通点を話し、提案条件は別に確認する | 共通点を作る、雑談を望まない相手に続ける |
| 希少性:入手しにくさが評価に関わる | 実際の期限・残数・期限後の条件を伝える | 期限を作る、毎回「最後」と言う |
受け取りを制限する組織規程があるなら資料・試用の提供方法も確認します。担当者の職種やうなずきだけで「この原理が効く」とは決めません。
事実・確かめ方・選択を、同じ説明に入れる

- 事実:期限、導入社数、認証、共通点の出どころと更新日を確認する。未確認なら、そのまま未確認と伝える。
- 確かめ方:相手の問いに対応する仕様、事例、比較条件を渡す。共有できない資料は理由と代わりに確認できる範囲を示す。
- 選択:訂正や保留を受けたら記録を更新する。連絡停止の意思があれば、営業連絡を止める手順につなぐ。
これは点検の入口です。三つが揃っても、守秘義務や贈答規程、表示・勧誘の法令まで適切だと保証できません。より広い判断は営業心理学の倫理で確認します。
相手の問いに、一つの資料で答える

たとえば「同じ工程の会社ではどう使っていますか」と聞かれたら、総導入数を増やして説明するより、その工程の事例を確認します。事例がなければ、ないと伝え、検証できる仕様や試験の範囲を示します。似た会社の採用は、相手の会社での適合を証明しません。
商談メモには、相手の問い/確認できた資料と条件/未確認の点/相手が選んだ次の対応を残します。「好感触」だけの評価にしないことが、次の担当者への引き継ぎにも役立ちます。
架空の会話で確認する:原理の名前は場面の後に
編集室で、ミナトは翌日の商談の準備をしていました。ノートには六つの原理が縦に並び、それぞれの横に「使う/使わない」の欄が空いています。
ミナト
明日の相手は、二社目の比較で来られます。僕は六つのうち、どれを使えばいいのか決められていません。導入社数は言えますし、今期の受付枠が残り少ないのも本当です。
カナエ
先に、前回の商談で相手が何を言ったかを教えてください。数字の話をしたとき、相手はどこで質問しましたか。
ミナト
導入社数を言ったら、「そのうち、うちと同じ工程の会社は何社ですか」と聞かれました。僕は答えられなくて、次回までに調べますと言いました。受付枠の話はしていません。
カナエ
断定ではなく仮説ですが、明日の相手は人気の数字ではなく、自分と同じ条件の会社がどうしたかを確かめようとしています。同じ工程の会社の例と、合わなかった例を一つずつ持っていけば、それが判断材料になります。受付枠は、相手が比較を終えて時期だけ迷ったときに、期限後の枠と一緒に一度言えば足ります。今の相手は、まだそこにいません。
使う原理を先に選ぶのではなく、相手が何を確かめられていないかを見て、それに当たる事実を出す。あとから名前を付けるなら、明日の材料は社会的証明で、受付枠は希少性です。名前は、場面の後でいいのです。
ミナトはノートの「使う/使わない」の欄を消して、代わりに一行だけ書きました。「相手が確かめられていないこと:同じ工程での実績。合わなかった例も持っていく」。受付枠の行は、消さずに残しました。相手が決める時期に入ったとき、期限後の枠と一緒に言うための行です。
相手が同じ工程の例で決めるかどうかは分かりません。ミナトはそれを「これで決まる」とは書かず、「聞かれたことに答える」とだけ書きました。
次の商談では、前回の未回答を一件だけ選び、資料の出どころを確かめて持参してください。答えがまだない場合は、分かった範囲と未確認を分けて伝えます。
よくある質問
『影響力の武器』には7つ目の原理があると聞きました。この記事で扱わないのはなぜですか?
著者ロバート・チャルディーニの公式サイトでは、六つの原理に加えて後から「unity(一体性)」が七つ目として挙げられています。この記事は書籍で広く知られる六つを入口として扱います。七つ目を営業で扱う場合も線は同じで、実在する共通の所属だけを指し、相手が断れる状態を残します。
六つの原理をすべて使えば、成約は増えますか?
増えるとは言えません。原理は相手の傾向の名前であり、相手の現在地が違えば同じ言葉が圧力になります。一つの商談で必要なのは、相手がまだ確かめられていないことに当たる事実を一つ、出どころと出口つきで出すことです。原理の数と成約率を結びつける根拠は、この記事では示していません。
Your next note
ミナトの答えではなく、あなたの一件へ。
今日ノートへ書くのは、次の一行だけでも構いません。持ち帰る候補を端末内へ残し、明日の商談で試すかどうかは後から選べます。
明日の一件で、ひとつ試してみたい問いを選んでください。
マイ商談ノート
今日、残しておく候補
気になった項目を、この端末のブラウザへ保存できます。ログインや送信はありません。
まだ保存していません。
自分の場面を「事実・解釈・未確認」の三欄へ書き直すなら、五冊目の読者ケースを使う。 送信せず、この端末だけで使えます。

