商談の入口と準備

無料相談・無料診断はどう設計する?|「無料」が判断を単純化する条件

無料相談の前に、わかること、わからないこと、有料になる線を示し、無料で終えてもよいと伝える図。
無料でわかること・わからないこと・有料になる線を申込み前に示し、無料で終える選択も伝えます。

読了目安 約7分 · 公開 · 更新

無料相談・無料診断は、「無料でわかること」「無料ではわからないこと」「次に有料になる線」の三つを、相手が申し込む前に読める場所へ書いてから始めます。範囲が先に分かっていれば、受けるかどうかを相手が自分で決められます。相手が遠慮を口にしたら、そこがやめる合図です。

持ち帰る一言

無料は入口を広げる道具ではなく、どこまでを渡すかの約束

無償の窓口で迷うのは、たいてい「どこまでやるか」でしょう。相手の反応を見ながらその場で決めていると、線は商談ごとにずれ、社内でも説明できなくなります。先に線を引いておくほうが、渡す側も受け取る側も楽になります。

無料相談の設計で先に決める三つ|わかること・わからないこと・有料になる線

着手前に決めるのは、次の三つだけです。

  1. 無料でわかること。 成果物の形まで決めます。口頭のコメントで終えるのか、所見を一枚渡すのか、録画や議事メモを残すのかで、相手の期待は変わります。
  2. 無料ではわからないこと。 実データが要る、現場を見ないと言えない、社内規程を読まないと判断できない。言えない理由も添えます。
  3. 次に有料になる線。 どの作業から見積もりになるか、概算をいつ出せるか、無料のまま続けられる範囲はどこまでか。

三つが決まっていないと、無償の側が「なんとなく」続きます。相手は断る時期を見失い、こちらも費用の回収点を説明できません。

実物を一定期間使ってもらう段階の設計は、営業のトライアル提案書はどう作る?が持ちます。ここで決めるのは、その前段にある「会う前に渡す範囲」です。

「無料」が判断を単純化する|値段以外を比べにくくなる

価格がゼロになると、人の選び方は連続的に変わらないことがあります。このゼロ価格効果の定義と研究上の限界は、用語記事で説明しています。Zero as a Special Price: The True Value of Free Products(Shampanier・Mazar・Ariely、Marketing Science 26巻6号742〜757ページ、2007年)は、商品どうしの価格差を保ったまま安いほうをゼロ価格にすると、ゼロ価格の選択肢を選ぶ人が増え、高いほうを選ぶ人が減ったと報告しています。説明要因としては感情の働きが最も有力と検討されました。

ただしこれは消費者向け商品を選ぶ実験であり、B2Bの無料相談の申込や、その後の契約に同じ結果が出るとは示されていません(確認日 2026-09-26)。

編集部が日々の商談記録から見ている範囲でも、ゼロ円の案内は判断を短くします。「無料なら聞いてみよう」で申込は増える一方、何が得られるか、どこまでかを相手が比べないまま席に着く。だから範囲を書くのは、受ける側ではなく渡す側の仕事になります。判断材料をどれだけ、どの順番で渡すかという論点は認知負荷に置いています。

無料診断でわかること/わからないことを2列で見せる

自社の言葉へ言い換えるための下敷きです。右の列を空にしないでください。

無料でわかること 無料ではわからないこと
現状の聞き取りと、論点の整理 実データにもとづく試算
他社で一般的な進め方と注意点 御社の環境でそのまま動くか
進める場合の段取りと期間の目安 正確な費用と納期
担当者どうしの相性、進め方の合い方 導入後の運用体制が回るか

二列を同時に見せると、相手は「今日で足りるか、次が要るか」を自分で判断できます。片側だけの案内は、期待だけを持ち上げてしまいます。

無料相談の範囲を申込画面と冒頭の一言でそろえる

同じ内容を三か所へ置きます。申込画面、案内メール、そして当日の冒頭30秒です。

「今日は45分で、現状の整理までをお渡しします。試算とお見積りはこの時間では出せないので、必要でしたら次の段取りをご案内します。今日で終えていただいても構いません。」

文面と口頭がずれると、相手は「話が違う」を確かめられなくなります。ずれに気づいたら、直すのは口頭ではなく文面のほうです。当日の進め方そのものは営業の初回商談はどう進める?、そこで聞く質問の作り方は営業ヒアリングの質問が持ちます。

無料相談が逆効果になる条件とやめる合図

次のどれかに気づいたら、範囲を広げる側ではなく、終わり方を渡す側へ回ります。

  • 範囲を曖昧にしたまま回数を重ねている。資料を小出しにして、次回の理由を作っている。
  • 「ここまで無料でやったので」と、相手の返しにくさを当て込んでいる。
  • 相手が遠慮を口にした。「ここまでしてもらって」「申し訳ない」は、受けたい合図ではなく、止まる合図です。
  • 相手の社内で、無償役務の受領そのものが説明しにくくなっている。

二つ目は、渡した側が返礼を期待して出口をふさぐ形です。技法の名前にかかわらず線を越えるので、営業心理学は操作になる?の守る一線と同じ扱いにします。

向く相手/向かない相手

  • 向く相手。 課題の輪郭は見えているが、社内へ出す材料がない人。複数社へ同じ問いを投げて比べている人。無料診断の所見が、そのまま社内で回覧できる形になります。
  • 向かない相手。 要件も予算も固まり、見積りだけが要る人。無料相談は遠回りになります。無償の受領に制限がある組織も同じです。

会話例|ミナトの無料診断

三回目の無料診断を終えたところで、相手が「ここまでしてもらって申し訳ない」と言いました。ミナトの返事は「では次は正式なお見積りを」。

ミナト

「申し訳ない」を、僕は前向きな返事として聞いていました。実際には、止めたいけれど止めにくい、という言葉だったと思います。

今なら、そこで一度切ります。「今日までの分で終えていただいて構いません。続ける場合は、ここから有料です」と、先に言っておきたいです。

ミナトの直し方が唯一の正解ではありません。ただ、遠慮が出た時点で止まれるかどうかは、当日の機転ではなく、事前に線を引いたかで決まります。

相手の出口|「これで終えても構いません」を先に言う

出口は、相手が困ってから探すものではなく、申し込む前に渡しておくものです。

  • 無料の回で終えてよいと、案内文と冒頭の両方で言う。
  • 診断結果を持ち帰り、他社へ見せてよいと明示する。
  • その後の連絡の可否と頻度を、相手に決めてもらう。
  • 断った相手へ、条件を変えた再提案を重ねない。

四つが実際に残っているかは自己決定感の四条件で点検できます。自由が狭まったときの反応そのものは心理的リアクタンスに譲り、ここでは相手の内心を診断しません。商談全体の進め方は売り込まない営業の進め方が持ちます。

この記事の3点

  • 判断が進む条件:無料でわかること、わからないこと、次に有料になる線を、申込前の文面と当日の冒頭でそろえて示す。
  • やめる合図:範囲を曖昧にしたまま回数が増えた。返礼を当て込んだ言い方が出た。相手が遠慮を口にした。
  • 相手の出口:無料の回だけで終えてよいと先に言い、結果の持ち帰りと連絡の可否を相手に委ねる。

今日の一手|無料の範囲を一枚に書き出す

次の案内文に、一行だけ足してください。「この時間では出せないもの」です。書けない場合は、無料の範囲がまだ決まっていない合図なので、二列の表を自社の言葉で埋めるところから始めます。

よくある質問

無料相談の時間は、どれくらいが適切ですか?

一律の正解はありません。相手に持ち帰ってもらう成果物を先に決め、それを作るのに要る時間から逆算します。30分で聞き取りの整理までなら30分、所見を一枚渡すなら準備と当日を分けて見積もります。延ばせば喜ばれるとは限らず、相手の時間も費用です。

無料で相談に乗ったのに発注がない場合、どう考えればよいですか?

無料の範囲を決めた時点で、回収できない分は自社の費用です。発注がなかった相手へ請求や追加提案を重ねず、次の設計へ反映します。申込が多いのに発注が少ないなら、集まる相手がずれているか、無料の範囲が広すぎる可能性があります。

無料相談で聞いた内容を、そのまま提案書に使ってよいですか?

使う前に相手へ確認します。当日の冒頭で「伺った内容を提案の検討に使ってよいか」「社内の誰まで共有するか」を聞き、断られた範囲は使いません。秘密保持の取り決めがある場合は、その条件が優先です。

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